夏の庭―The Friends
湯本 香樹実
そんなにたくさんの思い出が、このふたりのなかにしまってあるなんて驚きだった。
もしかしたら、歳をとるのは楽しいことなのかも知れない。
歳をとればとるほど、思い出は増えるはずなのだから。
そしていつかその持ち主があとかたもなく消えてしまっても、思い出は空気の中を漂い、雨に溶け、土に染みこんで、生き続けるとしたら・・・・・・いろんなところを漂いながら、また別の誰かの心に、ちょっとしのびこんでみたりするかもしれない。
初めて来たところなのに、来たことがあると感じることがあったりするのは、そんなだれかの思い出の、いたずらなんじゃないだろうか。
どことなく「スタンド・バイ・ミー」を思わせる雰囲気漂う、少年3人の物語。
既視感は誰しも体験のあることで、それをこんな風に捉えられたら素敵ですね。
この本のカテゴリは「児童書」ですが、大人が読んでも充分な手ごたえがあります。
というか、真に良質な児童書は子供にとっても大人にとっても良質なものなのですよね。
登場する少年はそれぞれにどこか満たされないものを感じていて、家庭環境もそれぞれに異なる問題を抱えています。
そんな彼らがある日、「もうすぐ死ぬかもしれないおじいさん」を「観察」して、ひとの死ぬところを見てみたい といった残酷な興味を持ちます。
制約だらけで生気の無い毎日の捌け口として「おじいさんの観察」を始める少年たちは、奇妙な成り行きでこの「1人暮らしのおじいさん」と関わっていくことに・・・。
子供は生まれてくる場所を自分で選べない。それ自体がこの世の不条理だと感じる子供は少なくないと思う。子供が純真で無垢だなんて嘘。小学生だって幸せで楽しい時間ばかりじゃない。子供の世界も生きていくのはそれぞれにキビしいのです。
世界は広いのに閉塞している・・・そう感じたことのある子供やかつて子供だった人々にとって、ここに広がる「夏の庭」は「それでも、この世界で生きていくのもそんなに悪くない」という気持ちにさせてくれます。
時々読み返したくなるのは、それでかもしれません。