クレイジーフラミンゴの秋 / 誼 阿古(よしみ あこ) | Paradise City

Paradise City

<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

0
    - | permalink | - | - | pookmark |
    << Sondre Lerche / Sleep On Needles | main | ブクログ開設してみました >>

    クレイジーフラミンゴの秋 / 誼 阿古(よしみ あこ)

    水辺に片足で立っているフラミンゴ。
    あんなに細い細い脚で片足立ちだなんて、大丈夫なんだろか・・・
    たぶん、フラミンゴの側からするとそれは至極当然の所作なのだろうが、見る側からするといかにも心許ない立ち姿に見えてしまうのだった。
    本人は常に自然体なのに、外から見ると何とも危なっかしいその様子は、確かに中学生くらいの女の子とよく似ている。
    紅い炎の色を羽に湛えたフラミンゴはいつも群れているのに、時々その群れから外れてしまうものがいるらしい。群れからはみ出てしまうと「クレイジー」だと呼ばれてしまうのだった。
    決して仲間が嫌いなわけじゃない。
    でも噂話や湿度の高い付き合いに馴染めない少女は、時々群れから離れないと窒息してしまいそうになるのだ。それが生きるための努力であるということに、なかなか気付いてくれるひとは少ないけれども。

    この作品は前作「クレイジーカンガルーの夏」のスピンオフ作品。
    とはいえ、前作から読んでいるひとにもそうでないひとにも充分読み応えのある作品になっている。

    今回の主人公「菅野晴」は中学1年生の少女で、優等生の両親に育てられたせいもあり、いまひとつ自分に自信が持てない。
    学校と家庭の日常を平穏に暮らしたければ、自分の心を無防備に露わにせず上手に振舞う必要がある。しんどいけれど、そうしないと尚面倒なことになることも察しがつくから。

    そんな日常の延長は合唱コンクールを契機にして、晴を含む彼らに現実と向き合うとはどういうことなのかを気付かせていくのだった。
    その風景の先に広がるのはビリー・ジョエルの「ピアノ・マン」。
    たぶん私は今後ピアノ・マンのイントロを聴くと、この美しい反逆のシーンを思い浮かべるだろう。反社会的な態度を取るだけが反逆ではなく、しなやかに挑戦することもその手段であるということ。ロックの本質は、そこにあると思う。

    阪急32番街の輸入盤店は私も頻繁に出入りしていた。その空気や人いきれなんかも当時のまま思い出すことができる地の利があるとはいえ、この店内のシーンやエレベーター・ホールのシーンは、映画のワンシーンのように鮮やかだ。
    あの頃は32番街の展望ホールに居る事も平気だったのに、あるときを境に高層ビルが怖くなってしまってもう随分ご無沙汰している。
    大人になったらもっと自由になれるんだろう・・・と昔32番街をうろついていた頃に漠然と思っていたものだけれど、歳を重ねるとその分の責任とか義務ももれなく付いてくるので、中高生の頃に思い描いたような「自由な大人」は実は幻想だったのだなとわかってしまった。

    晴の担任である原田先生は、リアルに大人を生きているのだけれど、生あたたかい優しさで生徒を丸め込んだり誤魔化したりしないところがいい。こんな風に向き合ってくれる先生が居れば、生徒もラッキーだ。
    何よりこのひとは色んな意味でいい男である。

    サラ・ヴォーンの「ラヴァーズ・コンチェルト」、YMOの「RYDEEN」、ビートルズの「SHE'S GOING HOME」ブルース・スプリングスティーンの「RACING IN THE STREET」・・・ここでは紹介しきれない挿入歌の全てが、単なる演出上のB.G.M.でなく作品のストーリーとしっかり切り結んでいるのが素晴らしい。
    うーん、やっぱりこれはサントラが欲しいですね マジで(笑)自分で作ろうかな。
    0
      [本] 小説・短編 | permalink | comments(6) | trackbacks(1) | pookmark |

      スポンサーサイト

      0
        - | permalink | - | - | pookmark |

        この記事に対するコメント

        >「自由な大人」は実は幻想だったのだなとわかってしまった。

        この年齢になると、しみじみ思うんだよね
        子供時代がいかに自由だったかって(笑)
        それはもしかしたら、義務や責任を負わなくても
        多少のことは何とか出来た気楽さだったり
        自分の事だけ構っていればよかったからかも知れないんだけど^^;

        それにしても挿入歌のラインナップを聞いただけで
        読んでみたいな、と思わせる作品ですね
        もしかしてこれは、実は大人向けの作品なんだろうか?☆

        みっちぃ | 2007/03/07 7:06 AM
        私も読了しました。またまた面白かったですね。「ピアノ・マン」のところは本当に・・・感想書いたらTBさせてもらいます。

        私が一番よく行った輸入盤屋は東通りのLPコーナーでした。好みを完全に把握されていて、上得意を超えてカモでした(笑) 32番街のあの店はエレベーターで上がるのが面倒で。妻はあそこはポスターをよくくれるから好きだったと言っています。あのころはLP一枚選ぶのに真剣だったなあ。大人になって、自由は無いけど小金はできたのでわりとほいほいCDを買ってしまいますが、あのころのようにじっくり、真摯に聞くことはなくなってしまいました。うまくいかないもんだと切なくなります。

        「もう二度とチャンスは無いかもしれない」の言葉に押されて、ガンズ行くことにします。
        kingdow | 2007/03/07 12:45 PM
        う〜ん。おステキなレビューだぁ。
        鍋料理の後の雑炊を味わっているかのようでした。
        私も何かしら書けたら、TBさせていただきます。

        >単なる演出上のB.G.M.でなく作品のストーリーとしっかり切り結んでいるのが素晴らしい。

        いやホント。臨場感タップリでしたよね。私の場合、知らない曲も多々あったんで「どんな曲だろう」ってことで余計にサントラ欲しいです。
        読後にRYDEENを聴いてみたんですけど、なんだかイモ欽トリオを思い出してしまいました(笑)
        まにゃーな | 2007/03/07 3:04 PM
        ★ みっちぃさん

        年齢的には大人になっても精神的にこどもなんじゃないかというひとって、自由と義務の認識が曖昧なのかもな・・・なんて、みっちぃさんのコメントとそちらでのエントリを読みながら思ったりしました。

        これは大人が読んでもこどもが読んでも面白い作品ではありますが、若いひとがこれを読んでここに登場した曲を始めとする洋楽を聴くきっかけになったら素敵だなとも思います♪
        nonkey37 | 2007/03/11 12:29 PM
        ★ kingdowさん

        kingdowさんのTBお待ちしております〜♪

        輸入盤屋といえば、普段の学校帰りによく行ったのが「あべのアポロ」のレコード屋でした(笑)ここはもう今は無いみたいですが・・・

        >あのころはLP一枚選ぶのに真剣だったなあ。

        そうですよね。中古屋さんも今ほどポピュラーな存在ではなかったですし。
        レコードを買って大きな包装袋を持ち運んでいるといかにも「レコード買ったんだよ!」と宣言しながら歩いているように思ったものです(勘違い・笑)
        その分、買ったものを聴く時は期待も大きかったし真摯だったのでしょうね・・・

        ガンズ行かれることにされたのですね〜♪
        最終日でしょうか?
        とにかく5日間のJAPANツアーをなるべくいいコンディションでやってもらいたいものです(切実)
        nonkey37 | 2007/03/11 1:08 PM
        ★ まにゃーなさん

        あはは(笑)
        お雑炊的エントリって何だかいいなあ。
        私は素朴な鶏雑炊が好き。

        サントラ 欲しいですよね。
        ジュリーの「サムライ」が入ってくるあたり私は何となく嬉しくなっちゃうんですけど(爆)
        で、どの曲も削らずにドラマ化されれば素敵だろうなと思う。
        ビートルズが使用不可能な現状では、もう相当無理な話なんだろうけど映像化されるといいのに と思います まじで。
        今ふと思ったのですが、あれだけ売れた「ノルウエイの森」が映画化されないのってそこらへんが最大のネックだからかな?
        nonkey37 | 2007/03/11 1:21 PM
        コメントする









        この記事のトラックバックURL
        トラックバック機能は終了しました。
        この記事に対するトラックバック
        誼 阿古(よしみ あこ)さん作品ですハイ。前作「クレイジーカンガルーの夏」のスピンオフ作品ってヤツなんだけど、前作を読んでなくても楽しめると思うです。が、両方読めば両方の作品が更に味わい深くなると思うんで、2冊で2作品以上の満足感が得られるかもしれま
        クレイジーフラミンゴの秋 | Untitled-Blog | 2007/04/16 8:19 PM